Lost and Found

事件資料を紛失するのは法律家として大きなミスです。ごくまれにそうしたことが報道されたりしますが,同業者としては考えただけでぞっとします。そんなわけで,私自身は,そうした事態を避けるべく,裁判官時代であれば,休日に資料を使って仕事をする必要があるときでも持ち帰らず、面倒であっても裁判所に出勤するようにしていましたし,どうしても持ち帰らざるを得ないときは,カバンを二つ以上持たない,カバンを手放さない(電車の中でも網棚の上や足元にも置かない),どこにも立ち寄らず職場から自宅に直行する,ということを心掛けていました。弁護士は,裁判手続や,打合せに出向くことがありますので,裁判官と比較して資料を持ち運ぶ機会が増えざるを得ませんが,それでもできるだけ上記のような点を守るようにしております。もちろん,油断は大敵なのですが,これまでのところは,資料の紛失という事態は避けられています。

 とはいえ,これまで財布や携帯電話を置き忘れたことは,何度かあります。しかし,これらはすべて数日以内に警察に届けられて手元に戻ってきました。もちろん,運がよかったことは間違いないですし,少数の例を基に一般化することは誤謬のもとだとは思いますが,私が生活したことのあるアメリカやカンボジアで体験したり,見聞したりしたところと比較しても,日本で落とし物が戻って来る確率は驚異的に高いのではないかと感じます。

 先日,恥ずかしながら久しぶりに財布を紛失しました。帰宅後に,何となく虫が知らせたので,かばんを確認したところ財布がなく,行動を思い返してみると,おそらく帰りがけに寄ったスーパーマーケットで買い物をした際に落とした気がしたのですぐに店に行って確認したところ,店の方で保管されており,ちょっとした手続を経てすぐに手元に戻りました。本当にほっとしたのですが,さらに,応対をしてくださった店員は,私に財布を手渡す際に「ありがとうございました。」とおっしゃられたのです。(習性としておっしゃっただけかもしれませんが)驚くとともに他人の善意のようなものに触れられて,ほっこりとした気持ちになりました。とはいえ,体験せずに済むならそれに越したことはありませんので,今後も気を付けたいものです。

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