スピーチの極意

     

 法律家は,話がうまい,というイメージがあるかもしれません。もちろん,そういう人もたくさんおられると思いますが,別に皆が皆そういうわけではありません。

 それでも,法律家をしていると,時には人前でスピーチをしたり,といった機会もあります。1枚目の写真が、後述するように、アメリカでした日本の法制度についてしたスピーチのときのもの、2枚目が、カンボジア法学会でした日本とカンボジアの詐害行為取消権の相違についてのスピーチのときのものです。どちらも英語でやりました。そして、こんな風に人前でスピーチをする機会を得るたびにいつも思い出すことがあります。

 それは私がアメリカに留学して参加した語学学習プログラムのことです。

 アメリカらしい,といえばアメリカらしいようにも思うのですが,そのプログラムでは、本当によくプレゼンテーションをさせられました。もちろん、英語で、です。正直に言って当初は,しどろもどろになったり、黙り込んでしまうこともあり、本当に苦痛でした。多少慣れてきてからも,なかなかうまくいかないな,と落ち込む毎日でした。

 もちろん,並行して,プレゼンの技術も教わりました。文章は簡潔に,パワーポイントは1スライド1トピックだ,出だしが大事だ,といったようなことです。けれど,そこで,一番大事だといわれたのが,準備(preparation),ということでした。若干抽象的な内容ではありますが,確かにこれが一番実践的に役に立ったアドバイスでした。

 それを実感したのは,語学学習プログラムも終わり,ロースクールの授業が始まった後に,15分で自国の法制度についてプレゼンをさせられるときに羽目になった時でした。

 ロースクールの授業には,語学学習プログラムに参加しない(すなわちすでに英語に堪能な)留学生もいたので,本番前は本当に嫌で嫌で仕方がなかったのですが,逃げ出すわけにも行かず,思いついた手段が,スピーチの原稿を作り,それを,間の取り方や,ジョークを言うタイミングも含めて本番を再現できるまで暗記して臨むということでした。

 本番の前々日くらいから,内容を暗記し,自分なりにやれるだけのことはやったと思えるまでリハーサルをしました。それでも本番前はとても緊張しましたし,リハーサル通りやれなかった部分もありましたが,とりあえず破滅的なことにはならずによかったとは思えましたし,何より、自分なりに聞いている人に言いたいことはおおむね伝わったように感じました。インド人の友人にもとても面白かったと言ってもらえたのも少しは自信につながりました。

 これが準備が整う(be prepared)ということなのだな、と実感した良い経験だったのですが、成功(?)に気をよくした私は、カンボジア法学会でのスピーチを引き受けてしまい、胃のせりあがるような緊張感を再度味わい、経験に学ぶこと、というのも準備に負けず劣らず大事なことだと、思い知るのでした。

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