きっとうまくいく
映画とか小説は,数限りなく作られていて,全部をチェックするなどというのは到底無理なので,よい作品に出会うためには,縁と運とタイミングが重要です。
僕はインド映画「きっとうまくいく」を石垣島に住んでいたころにレンタルビデオ店で借りて初めて見たのですが,ストレートに前向きな邦題が示唆するように思われた内容はあまり好みではないので,目にしたタイミングによっては手に取らなかったのではないかと思います。それでもこれを手に取ったのは,子供のころにインドが登場する漫画作品を読んで以来インドが好きだったこととか,そのときの絶妙な精神状態とかが影響したのだろうと思います。すなわち、つまるところこういうことが縁と運とタイミングというものなのではないでしょうか。
ご存じの方はご存じかもしれませんが,インド映画は往々にして、3時間前後の長尺,ストーリーはシンプルで,ロマンス,コメディなど娯楽的な要素が複数詰まっていて,かつ,要所要所でミュージカルが始まるというのが定番です。本作も基本的なフォーマットはそれに従っているのですが,インドの社会問題である学歴問題に起因するシリアスな悲劇も描きつつ,それでいて暗くなりすぎず,また,3時間近い上映時間の間,ふんだんに伏線を張り,そして,丁寧かつ分かりやすく回収し続けるさまはまさに爽快で,本作は「泣けて,笑えて」,というに相応しい作品だと思います。3時間近い上映時間が短く感じられるほど見どころがたくさんある本作ですが,私は,作中に複数回登場する台詞「王よあなたは偉大なり。貢ぎ物をお受けください」が(多分)二度目に使われる場面がとても印象に残っています。
それ以来何度かこの作品を見てきました(僕は好きな作品は何度も見返します。)が,正月に知人が家に遊びに来た際に,映画を見ようという話になって,amazonのprimevideoでサーチしていて見つけた本作を2年ぶりくらいに鑑賞しました。
ご覧になったことのある人はお分かりになるかと思いますが,本作は昨年,裁判官を辞め、弁護士として独立するという大きく環境を変えた僕にとってはある面でドンピシャな作品でして,作中で繰り返し述べられる「成功を追い求めてはならない」,「心はとても臆病だ。麻痺させる必要がある」といったメッセージはこれまでとは少し沁み方が違ったような気がしましたし,自分もそういう心持で頑張らないといけないと思ったりもしました。
これまでも機会があるたびにいろいろな方に本作を勧めてきたのですが,またそうしたい気持ちになりましたので紹介してみました。やや癖のつよい作品もあるインド映画の入門編としてもよい作品だと思いますので皆様ぜひご覧ください。日本ではそれほど多くインド映画を見られるわけではないように思いますが,その分,日本でみられるものはどれも厳選された作品という気がしますのできっと素晴らしいインド映画に出会うきっかけになると思います。