電子契約の法的有効性と留意点について(第1回)

1.はじめに
 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、新しい生活様式への移行が求められている状況において、企業でもテレワークやサテライトワークなどの推進が求められています。
 そのテレワーク推進の阻害要因の1つになっているのが、契約書の押印手続です。契約を締結する際には、契約書に会社の代表印(実印、あるいはそれ以外の場合もあり)を押印しているのが実務上一般的ですが、社内の押印手続をするために出社をしなければならないため、それがテレワーク推進の阻害要因の1つになっているというわけです。
 テレワーク推進の流れをとめることなく加速させるべく、政府から電子契約や押印にまつわるQ&Aが出されています。これらの動きを受け、近年、相次いで電子契約サービスが出されています。そこで、今回と次回の2回にわたって、電子契約についての法的有効性や留意点について解説します。
  今回は、そもそもなぜ契約書を作成するのか、契約書に押印は必要なのかなどといった基本的な内容について説明します。

2.なぜ契約書を作成するのか
 契約は、法律などで特別の定めがない限り、口頭であっても成立します。すなわち、契約書という書面がなくても契約は成立します。例えば、友人間でお金を貸し借りすることも、法律的にいえば、契約の一種と考えられるところ、貸し借りする金額にもよるでしょうが、契約書を作らないことも多いと思いますし、そうであるからといって、直ちに契約がなかったということにはなりません。
 それではなぜ契約書を作成するのでしょうか。
 それは、口頭で契約をしただけでは、後日契約の成否や内容について契約当事者間で争いが生じた場合、それを証明することができず、こちらが主張したい内容を認めてもらうことができないからです。
 契約書があって、お互いの押印がなされていれば、契約の相手方も、契約書に記載の契約内容やその存在について争うことも少なくなります。

3.なぜ契約書に押印をするのか
 契約書という書面があっても、契約の相手方が「当社が作ったものではない。誰かが勝手に作ったものだ」などと言ってきた場合、契約の存在を主張したい側は、相手方がその書面の真実の作成者であること(文書が真正に成立したこと)を証明することが必要です。
 ただ、これを証明することは容易ではありません。そこで、民事訴訟法では「本人の署名または押印がある場合には、その書面は本人が作成したものと推定される」ということを定めて、立証の負担を軽減させているのです。

4.押印がないと契約書が真正に成立したことを証明できないのか
 そもそも、相手方が契約書が真正に成立したことを争わない場合には、証明をする必要がありません。
 一方で、仮に、相手方が契約書が真正に成立したことを争った場合であっても、以下に述べるように押印がありさえすれば万全というわけではありません。
(1)上述のとおり、「本人の署名または押印がある場合には、その書面は本人が作成したものと推定される」に過ぎないので、押印があっても、本人が作成したことではない、ということを推測されるような事情がある場合には、その「推定」が破られてしまう可能性があります。
 例えば、印章(いわゆるハンコのこと)が盗まれたり親族に勝手に使われたりといったような事情がこれに当たる可能性があります。
(2)印影(朱肉をつけた印章を紙に押したときに、紙に残る朱肉の跡)が本人の印章によって顕出されたものであることを証明することは、実印であれば印鑑証明書をもってすれば容易です。しかし、実際には実印以外の印章(認印や企業の角印など)を使うことも多く、その場合には、推定を及ぼすことができない可能性があります。
このように、本人の押印があるから万全だ、というわけではありません。
 そのため、必ずしも本人による押印を得ることにこだわらず、契約書の内容や相手方な どに応じて不要な押印を省略したり、押印以外の手段で代替することが有意義であると考えられます。

5.契約が真正に成立したこと立証するためにはどうすればいいか
 例えば、次のような立証手段を確保しておくことが有効です。
(1)契約の相手方のメールアドレスや本文、日時等、送受信記録の保存
(2)特に、新規に取引関係に入る場合には、契約締結の前段階で入手する本人確認情報
(指名・住所等及びその根拠資料としての運転免許証など)や当該本人確認情報の入手過程(郵送受付やメールでのPDF送付)の記録・保存
(3)契約の成立過程(メールやSNS上のやりとり)の保存
(4)電子署名や電子認証サービスの活用(利用時のログインID・日時や認証結果などを記録・保存できるサービスを含む)

 上記(4)の「電子署名や電子認証サービスの活用」は、紙の契約書ではなく電子契約をする場合に特有の手段になります。
 このように、契約が真正に成立したことを立証するためには、押印という手段にこだわることなく、上記のような様々な手段を確保することが重要です。

今回は以上になります。次回は、電子契約の法的有効性と留意点について具体的に説明します。

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