「断れない提案」と「朝のナパームの香り」

 特に法廷ものが好きだというわけではないのですが,職業柄,映画に法律家が出てくると何となく注目してしまいます。

 弁護士の社会的なポジションの違いを反映してか,アメリカの映画には,邦画よりも弁護士が出てくる頻度が高いような気がしますが,マフィアものであるゴッドファーザー3部作(正確に言えば1と2)にもロバート・デュバル演じるトム・ヘイゲンが弁護士として出ていて,重要な役割を演じています。

 そもそもゴッドファーザー3部作は,ビトーとその息子マイケルを中心とするマフィアであるコルレオーネファミリーについての一大サーガです。暴力的なシーンも多く,受け付けられない方もおられると思いますが,個人的には,ゴッドファーザー3部作は,作中で繰り返し,そして緻密に描かれる,聖と邪,繁栄と没落,理性と狂気,愛と憎しみなどのコントラストがとても美しい傑作だと思いますので,ぜひご覧いただきたい映画です。

 そして,コルレオーネファミリーは,作中で何度となく,他者に対して無理な提案をし,それを受諾させているのですが,このようなファミリーの提案に関して発せられる有名な台詞が「I’m gonna make him an offer he can’t refuse.(彼が断われない提案をする。)」というもので,これは,アメリカ映画の名セリフベスト100というもので2位にも選ばれています(なお,マフィアの提案なので,断らせないための手段は犯罪的で,弁護士として到底真似ができるものではありませんけれど。)。

 その一環として,トム・ヘイゲンも,1の序盤で,ビトーの命令を受けて,映画プロデューサーを相手にある役者の出演交渉をし,とある理由から非常に感情的になっていた相手に対しても理性的な対応をして最終的には見事に要求をのませるなど,映画内で理性の側を体現する役として,上記コントラストを見事に引き立てていました(なお,ロバート・デュバルは,出演料で折り合えなかったらしく,3には出演していません。それはそれでファミリーの衰退を象徴しているようで良い部分もあるのですが,映画がやや重厚さを欠いた原因になったような気もしますので,シリーズファンとしてはトムが出てくるストーリーも見てみたかったような気がします。)。

 ロバート・デュバルは,他の映画でも,弁護士(シビル・アクション)や,はたまた裁判官(ジャッジ 裁かれる判事)まで演じるなど,理性的かつ重厚な役柄が似合う方なのですが,ゴッドファーザーと同じくコッポラが監督する「地獄の黙示録」では,ベトナム戦争の狂気にとらわれたキルゴア中佐という役を演じていて,サーフィンをするために敵の前線を爆撃した上、主人公に、「I love the smell of napalm in the morning.(朝のナパームの香りは最高だ。)」という台詞を発していますが、これはこれで上述したアメリカ映画の名セリフベスト100で12位に選ばれてもいます。

 といった次第で,よくわからないタイトルの説明に行きついたわけですが,ともあれ,同じ役者が異なるキャラクターの役柄を見事に演じ分けているのを見ると,本当に感心しますし,自分でも,ちょっとやってみたくなったりもします。そんなわけで,もしも,僕の前で,ウイスキーを飲み,言いたいことがあるがいえないという人がいたら,マーロン・ブランドー演じるビトー・コルレオーネの名台詞「but you needed a drink first.(酒の力を借りてか。)」と言ってみたいのですが,これまでのところ,そういう状況にはなかなか巡り合えないでいます。よろしければお付き合いください。

「断れない提案」と「朝のナパームの香り」” に対して1件のコメントがあります。

  1. 中村不二雄 より:

    an offer he can’t refuseや、the smell of napalm in the morningを「大きな名詞」と捉えるとわかりやすくなりますね。

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