私、失敗しないので
随分以前の話になりますが、歯科に通っていた時期があります。私は、顎の骨が厚い?というような理由で麻酔が効きにくいそうでして、それまでも何度か痛い思いをしていまして、かなり様々な歯科医を渡り歩いていました。そんな中、とある歯科医で、そのような不安を吐露したところ、「大丈夫です。僕、患者に痛いと言わせたことないので」といっていただき、当時見ていた医者を主人公にしたドラマみたいだと思うとともに、なんと心強いことかと思ったことを覚えています(なお、実際に痛くありませんでした。)。
ところで、弁護士に相談される方は多かれ少なかれ、ご自身のトラブルについてどうような結果になるかについて不安を抱えておられます。それを踏まえ、我々弁護士も、事情を聴いたうえで、「見通し」を告げ、あるいは、その結果に、今後の行為も影響するのであれば、このような行為をすべきであるとか、避けた方がよいというようなアドバイスをさせていただくわけです。
しかし、弁護士が有利な結果を保証したりすることにはデメリットも多いと考えられており(たとえば、絶対うまくいくなどといって、不要な受任に結び付けようとするなど)、弁護士職務基本規定上も禁止されています(弁護士職務基本規定29条2項、「弁護士は、事件について、依頼者に有利な結果となることを請け合い、又は保証してはならない。」)ので、弁護士が、仮に内心では有利な結果が得られる見通しの確度は100%だと思ったとしても、断言してはならないことになります。後述しますように題名に掲げたフィクションの中の医師のセリフのように、「私、負けないので」とは言えないことになっていますし、実際問題、様々な意味で、結果を100パーセントの確度で見通すことはできないと思っています。
例えば、ご相談者に、「こういう事情があるが結果はどうなりますか?」といわれたとしても、ご相談者を疑っている、とか信用できない、と申し上げているわけではないのですが少なくともほとんど常に、
①そのような事情があると認定できる証拠はあるのだろうか、
②結論に影響を与え得る他の事情があるかもしれない、
③判断者(訴訟であれば裁判官)の判断がどのような判断をするかを見通せるか(私自身、元裁判官ですが、私が判断するわけではない以上やはり不確実性があります。また、裁判官としての経験に照らしても、あらゆる問題について裁判官の判断が一致するものではない、という感覚があります。)
などという疑問が(事案によってはそのほかの疑問も)頭に浮かんでおり、このような思考を経た結果、(後述する弁護士職務基本規定の存在を無視したとしても)結果について断言することは基本的には難しいと思っています。
もちろん、一般的に証明力が高いと考えられる証拠がある、結論に影響を与え得る事情が想定しにくい、信頼性の高い先例のある事案に類似している、といった事情があれば、見通しの確度は高まるとは思いますが、そのような事案はそもそもきわめて限定的にしか存在しないと思いますし、そのような、結論が自明であるように思われる事案が法律相談に持ち込まれることも現実的にはあまり想定しづらいようにも思います。
他方で、うまくいくかもしれないし、いかないかもしれないでは、法律相談というより、占いになってしまいますので、私なりに、想定される結果について、場合によっては、条件や留保をつけながら、可能性の高低についてご説明させていただいたり、コスト感も含めて結果をできる限りよいものにできるようなアドバイスをさせていただくよう尽力はさせていただいております。ただし、上記に様な理由がありますので、場合によっては「頼りない」と思われるとしましても、私自身、結果について100%の確度をもって述べるということは致しませんことをここに断言させていただきますので、何卒ご了解ください。