電子契約の法的有効性と留意点について(第2回)

 第1回では、契約書を作成する必要性や押印をする必要性の有無、契約が真正に成立することを立証するための有効な手段について説明しました。
今回は、紙の契約書ではなく電子契約をする場合について、その法的有効性や留意点について説明したいと思います。

1.電子契約は法的に有効か
 電子契約とは、従来のように紙の文書で取り交わすものではなく、PDFファイルなど電子文書で取り交わす契約のことを言います。
 前回説明したとおり、契約は、法律などで特別の定めがない限り、口頭であっても成立しますし、書面の作成その他の方式を具備することは求められていません(民法第522条2項)。したがって、電子契約であっても法的には有効です。

2.電子契約の効果
 電子契約自体が法的に有効であっても、紙の契約書の場合と同様、契約の相手方が「当社が作ったものではない。誰かが作ったものだ」などと言ってきた場合、契約の成立の真正を証明することが必要です。紙の契約書の場合では押印をすることで契約書が真正に成立したことが推定されましたが、電子契約の場合では押印の代わりに行うものが電子署名になります。電子署名とは、電磁的記録に記録された情報について作成者を示す目的で行われる暗号化等の措置で、改変が行われていないかどうか確認することができるもののことをいいます。簡単に言えば、電子上の押印のことです。なお、この電子署名が本人のものであるかどうかを証明するものとして、電子署名というものがあります。これは、押印における印鑑証明書と同じ役割です。本人の意思に基づく電子署名がある電子契約については、契約が申請に成立したことが推定されます(電子署名法第3条)。

3.推定がおよぶ電子署名といえるためには
 上記のような推定がおよぶ電子署名といえるためには、「これ(その電子署名)を行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるもの」(固有性の要件)である必要があります。
 電子署名などのサービスを提供する事業者(電子契約サービス提供事業者)の提供するサービスがこの固有性の要件を満たしているかどうかは、以下2つのプロセスのいずれにおいても、十分な固有性が満たされている必要があります。
 ①利用者と電子契約サービス提供事業者の間で行われるプロセス
 ②①における利用者の行為を受けて電子契約サービス提供事業者内部でおこわなわれるプロセス
 ①のプロセスについては、利用者が2要素による認証(例:メールアドレスやログインパスワードの入力に加えて、スマートフォンへのSMS送信やトークンの利用により取得 したワンタイム・パスワードの入力)を受けなければ措置を行うことができないような場合は、十分な水準の固有性が満たされているといえます。
 ②のプロセスについては、電子契約サービス提供事業者が当該事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う措置について、暗号の強度や利用者毎の個別性を担保する仕組み(例えばシステム処理が当該利用者に紐付いて適切に行われること)等に照らし、電子文書が利用者の作成に係るものであることを示すための措置として十分な水準の固有性が満たされていると評価できるものである場合には、固有性の要件を満たすものといえます。

4.電子契約サービス導入にあたっての留意点
 近年、色々な電子契約サービス提供事業者から続々と電子契約サービスが提供されています。では、電子契約サービスの導入を検討するにあたってどのような点に留意すべきでしょうか。電子契約サービスの利用者と電子契約の作成名義人の同一性が確認される(いわゆる利用者の身元確認がなされる)ことが重要な要素になると考えられます。
 この点に関し、電子契約サービスにおける利用者の本人確認の有無や水準、方法やなりすまし等の防御レベルは様々ですので、各電子契約サービス提供事業者のサービスの利用を検討するにあたっては、当該各サービスを利用して締結する契約等の重要性の程度や金額といった性質や、利用者間で必要とする本人確認のレベルに応じて、適切なサービスを慎重に選択することが適当と考えられます。上記のほか、電子契約サービス導入にあたって一般的に留意すべき点をいくつか挙げます。

(1)電子署名が使えない(紙の契や約書である必要がある)契約ではないか
   保証契約や定期借家契約など、電子契約では効力を生じない契約があります。
(2)取引先が電子契約サービスに対応しているか
   契約は基本的に相手方と二者間で締結するものですが、相手方が電子契約サービスに対応していない、あるいは応じない可能性があります。
(3)電子署名にあたっての留意点
  ①電子署名の利用範囲の確認
   電子署名の利用範囲は、電子契約サービス事業者により異なるため、事業者に事前に利用範囲を確認すること
  ②電子署名を行う前の内容確認
   電子署名は押印に相当する法的効果が認められ得るものであるため、電子署名を行う前に契約内容をよく確認すること
  ③電子署名を行うための署名符号(秘密鍵)の厳重管理
   実印と同様、利用者署名符号(秘密鍵)は十分な注意をもって管理すること。利用者署名符号(秘密鍵)の管理方法は、電子契約サービス事業者に確認すること。
  ④電子証明書の失効
   次の場合には、電子証明書の失効を電子契約サービス事業者に請求すること。
   ・利用者署名符号の危殆化(盗難、漏えい等により他人に使用され得る状態になること)又はそのおそれがある場合
   ・電子証明書に記載されている事項に変更が生じた場合
   ・電子証明書の利用を中止する場合
  ⑤電子署名の受取側が確認する事項
   電子署名を受け取った側は、電子署名の「検証」を行う必要がある。
   ※「検証」とは?
    ①電子証明書の有効性の確認(電子証明書の記載内容の確認を含む。)
    ②メッセージダイジェストの照合
  
 以上、一般的な留意点を説明しましたが、最終的に電子契約サービスを導入すべきか、サービスの導入することが可能か契約か、どの電子契約サービスを導入すべきか悩ましいことがありましたら、当事務所にお気軽にご相談ください。

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