Better Safe Than Sorry

 先日、夜中にトイレに行こうとした際、横着をしてライトをつけずに歩いていたら、暗闇の中で、ドアに足の指を思いきりぶつけてしまいました。そのときは酔っていたこともあり、「まあ大したことはないだろう」と思ってそのまま寝たのですが、翌朝になると痛み始めました。仕事もありますので、急に休むほどでもないかと思い、一日様子を見たのですが、翌日になっても痛みが引きませんでした。

 捻挫にしては痛いが、骨が折れたのだろうか、あるいは、ついに痛風になってしまったのかもしれない、と妙な考えが頭をよぎりつつ、近くのいわゆる病院を受診しました。すると、医師は患部をいろいろと眺めまわしたあげく、「これは痛風には見えませんね」と言い、私が「では骨折でしょうか?」と尋ねると、「うーん、そういう風にも見えにくい」との答えでした。

 あげく、「大きな病院で詳しく検査してもらったほうがいい」と紹介状を書かれ、「私の判断が間違っていることを祈りますが、あっていれば、私の手には負えない。」との不吉な言葉までいただきました(はっきりとはおっしゃられないのですが、血管が詰まっていて、組織が壊死する可能性などを危惧しているようでした。)。昨年来からの健康不安もあって、さすがに不安になり、その日の仕事をすべてキャンセルし、指定された総合病院へ直行しました。

 総合病院では、心臓外科に回され、造影剤を使ったCTなどの大掛かりな検査を受けることになりました。看護師から「今日は帰れないかもしれません。」と言われたときには、「これは本当にただ事ではないのでは?」と気分が悪くなったほどでした。

 しかし、丸一日かけた検査の結果、血管には何の異常もなく、医師もどこか申し訳なさそうな表情で「問題ありません」と告げられました。そのうえで、「念のため整形外科にも行ってみてください」と案内され、そこでレントゲンを撮った結果は、普通に骨折しているとのことでした。

 痛み止めを処方され、「2週間ごとに経過観察すれば大丈夫です」とあっさり診断がついたときには、何とも言えない気分になりました。もちろん、重篤な疾患でなくて安心しましたし、検査をしたからこそ、無事であることが分かったわけですから、何もなかったことを非難すべきではないのですが、最初から骨折の可能性を伝えていたのに、これほど大掛かりな検査が必要だったのだろうか、と率直にいって、少し腑に落ちない気持ちもありました。

 とはいえ、こうした医師の慎重な対応に対して、私自身も法律の専門家として一概に医師を責めることもできないという気持ちもあります。というのも、法律の世界でも、事実関係を慎重に検討し、可能性のあるリスクを幅広く考慮するのは重要です。確実な証拠が揃うまでは軽々に結論を出せないことも多いですし、弁護士倫理上も、自分に任せればうまくいく、などと過度に楽観的な見通しを示して、弁護費用をいただくわけにもいかないということもありますので、クライアントには、リスクについては告知をするようにしますし、場合によっては、「念のため、より確実な手続きを取ったほうがいい」とアドバイスする場面がよくあります。

 一方で、その慎重さが依頼者にとって負担となることもあります。上記とは逆に、過度に悲観的な見通しを示して(私に依頼しないと大変なことになるなどと言って、)弁護費用をいただく、ということは論外としても、「安全マージン」のためにどこまで手間や費用をかけることが最善なのか、という問題は、医療と同様に法律の世界でも常に悩ましいところです。

 また、法律家の大事な業務の一つに、主として顧問契約を通じて予防法務を提供するということがあり、経験上も特にビジネスの世界では重要だとは思いますが、同様に、信頼できる医者(かかりつけ医)を最初から見つけておくべきだったのだろうか?とも考えました。しかし、医師にせよ弁護士にせよ、アクセスには限界がありますし、そもそも、専門知識のない状態では、だれが信頼できるかなど、判断のしようがないことも多いのも事実であるように思います。

 などと、何とも言えない、そして一義的な答えがないであろうことをつらつらと考えさせられました。

 そんなわけで、私自身、明快な回答が出せるわけではないのですが、慎重を期しつつも、より精緻な判断を心がけるとともに、過大でも過少でもなくリスクを説明し、納得いただけるよう精進をしなければいけないという思いを強くした年始の出来事でした。

 

 ちなみに、そもそも、いい年をして、酔って足を骨折したこと自体について、軽率に過ぎるという向きもあろうかと思います。その点につきましてはまったく異論はありませんで、恥ずかしい限りです。以後気をつけたいと思います。

 また、今回の検査にかかった費用は、私が加入していた医療保険で完全にカバーできました。もし保険がなかったら、検査費用に対する不満はもっと大きかったかもしれません。やはり、何があるかわからない以上、医療でも法律でも、 少なくとも、「備えあれば憂いなし」 ということは間違いないのでしょう。なお、医療保険の要否については様々な考え方があると思います。私が「備え」が大切だというのも、比喩的、抽象的な意味でして、決して弁護士費用に関する保険をお勧めしているわけではありません(不要だと申し上げているわけでもありません)ので、申し添えます。

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