老舗の味

 これまでも何度か言及している小津安二郎は、今日では、普遍的とも思える評価を勝ち得ています。実際問題私が小津のファンとなったのも、小津の没後数十年が経過してからとなります。しかし、生前の一時期は、繰り返し同じモチーフを扱い続けることについて批評家から厳しく批判される時期もあったそうです。これに対して、小津は、大意、「自分は豆腐屋なのだから、とんかつを作れと言われても作れない」というようなことを言っていたそうです。

 もちろん、必ずしも同じことを繰り返していればよいという訳ではないと思います。小津自身も、導入には慎重だったものの、トーキーやカラーも導入しているように、時代の変化に伴って、変えるべき部分とそうでない部分というのはあるのだろうと思います。その区別は時にとても難しいように思いますが、それに成功しているのが、いわゆる「老舗」なのだろうと思います。

 先日、仕事の関係で久々に近くに立ち寄ったので、以前馴染みにしていた寿司屋に立ち寄りました。私の誕生以前から営業されている老舗のお店です。とはいえ、コロナウイルス流行の影響で2年以上も行っていなかった店です。飲食店は厳しいというのは今更言うまでもありませんし、店を切り盛りしていたご夫妻もご高齢なので、ひょっとしたら廃業しているかもしれないと思いつつ、これまでずっとご無沙汰してしまっていたのです。その日も、結果を知るのが怖いような気がして、予約も取らずに立ち寄ったのですが、そんな私の不安に反して、店はしっかりと営業されていました。

 久々かつ突然の訪問にもかかわらず、以前と変わらず美味しいお寿司に舌鼓を打ちながら、大将とお話をしておりますと、コロナもあって、その寿司屋がが入居しているビル自体は閑散としていたときも長かったとのことではありましたが、そんなときは、常連さんなどが、大変だろうからと出前をたくさん頼んでくれたのだ、ということでした。また、最近は、私のように久々に店を再訪される方も多いのだとおっしゃっていました。

 そんな訳で、半面では、ほっとするとともに、もう半面では、これが、提供する料理の味や雰囲気などについて長年にわたって信頼を得てきた強みなのだろうと感心もさせられました。飲食店と、法律事務所の経営には、いくつかの面で大きな相違がありますので、単純に比較をしたり真似をできるわけではありませんが、ともあれ、当事務所も、研鑽を重ねつつ、いつか、老舗の味を出せるように努めたいと思います。

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